真選組

 




「あ、帰ってきたぞ!」
「副長! 副長ォォォ!!!」



 屯所の前で隊士が二人、うろうろしていると思ったら、大騒ぎで手を振っている。土方は嫌な予感がした。昼間、自分がいない間に何かあったのだろうか。例えば総悟とか総悟とか総悟が何かやらかした――とか。
「何があった」
 嫌々でも聞いてしまうのは、一応自分は真選組副長であるからだ。土方が尋ねると、二人の隊士は顔を見合わせた。
「副長、無事でしたか?」
「どこも悪くなってませんか?」
「何だそりゃ」
 てっきり屯所で何かあったのかと思ったのに、逆に自分のことを聞かれるとは思っていなかったため、土方は聞き返す。
「いえ、頭とか大丈――」
「うらァ!」
「ギャアッ」
 何か失礼なことを言われかけたので反射的に手が出てしまった。気を取り直して「で?」と促すと、殴られなかった方の隊士が、同僚の失敗を体験せぬよう慎重に言葉を選ぶ様子が見て取れた。
「あの、今日の昼過ぎなんですがね、隊士の何人かがバタバタ倒れちまって」
「倒れただァ?」
 何か聞いたことのある話だ。
「…………で?」
「とりあえず病院連れていって全員無事だったんですけど」
「食中毒でもねぇって話だし」
「疲労がたまってんじゃねえかって医者は言うし」
「そんで副長だけいなかったから心配してたんですよ」
「探しても見つからねェし」
「そうそう、で沖田隊長が」
「土方さんなら殺しても死なねェから大丈夫だっていって」
「近藤さんちょっくら助けに行くからって」
「オイ待て。近藤さんも倒れたのか」
 隊士は顔を見合わせて頷いた。今は起きてるし元気ですよ、と告げる。
「でも沖田隊長、局長の隣で寝てただけだよなあ」
「馬鹿、看病してたんだよ。……多分」
「……で、今総悟の奴ァどこにいる?」
「隊長なら今は中に居るんじゃねぇですかね……ヒィ!!」
 すらりと抜いた刃に、引きつった笑みを浮かべる様は「鬼の副長」の名に違わぬ恐ろしさで。
「総悟ォォ!! 出てこいコラァ! てめー何喰わせやがったァァアアア!!!」
 抜き身片手に走る土方の背を呆然と見送った隊士二人は、そういえば今日の食事当番は沖田だったと思い出した。



 


 

 
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040627
事件の真相。

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