神楽土方

 




 万事屋を出て、階段を降りていたら、チャイナ娘とばったり会った。

 
 遊びに出ていないと思ったら帰って来やがった。
 この娘とは、先日の一件で少し関わりがある。厄介な相手と相対したものだと、土方は内心でため息を付いた。娘の方も土方に気づいて立ち止まり、睨むように見上げてくる。この娘にとって、真選組はせっかくできた「お友達」を奪った憎い敵なのだろう。特に、土方は。
 そのことについて、土方は娘に詫びる気はない。自分のとった行動は幕臣として当然のことであるし、それはそよ姫も理解している事だ。この娘は餓鬼だから、それが受け入れ難い。
 だからこうして一歩も退かずに土方に対抗している。というよりも。
 ――殺る気じゃねェだろうなこいつ。
 娘の不穏な気配に、土方は少し心配になった。何がって、自分の身が。そりゃ、簡単に命獲らせる気はないが、体が本調子でないのは万事屋でのあれこれで自覚させられている。
 娘の気に刺激されるのか、後ろに控えている巨大な生物までもが低く唸り始めた。勘弁しろよ、とうんざりする。そんな可愛くねぇ奴らには、教えてやらねえぞ。
 そう思いつつも、土方は動く。娘が目を据わらせて身構えるのが解った。




「そよ様はお元気だ」




 すれ違いざま、ひとこと。それだけで充分だろう。
 娘の纏う空気が劇的に変わる。振り返る気配がしたが、土方は娘を見なかった。
 カン、カン、と鉄階段を叩く音が二重になる。上に登る音は軽いリズムで。下に降りる音は穏やかに。




「銀ちゃんただいまアル」
「オゥ」
 神楽の表情が妙に嬉しそうだったので、銀時は「何かいいことあったのか」と聞いてやる。すると
「銀ちゃんには関係ないネ」
 と、はぐらかされた。
 年頃の娘はお父さんに内緒の話がたくさんあるのだろう。あれ、俺おとーさん?
 階段で口説かれでもしたんだろうか、と銀時は下を見る。堅物っぽい真選組副長。アレはね、あり得ないよね。



 そんなことを思いながら、銀時は「多串くーん」と黒い制服に声をかけた。



 


 

 
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040626
神楽と土方。のはずが最後銀さん(笑)
本編とは別にこのシーンが書きたかったんです。

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