ドット攻撃






その質問は唐突だった。

「なァ、俺のアレ…がドットになったらどうするよ」
 鮮やかな緋毛氈が敷かれた縁台に腰掛け、ついぞ見る事もない真剣な顔で男が投げかけた問いの内容のくだらなさに、一瞬土方の思考が停止した。男の脇には出来立てのみたらし団子が置かれていて、緊張感とは無縁である。
 男は傍らのみたらし団子を手に取り、あまくやわらかなそれを齧り取った。男がそれを咀嚼し飲み込んでしまうまで土方は言葉を発しなかった。なんと返事したものかと、答えあぐねていたのだ。
 すると男はさらに問いを重ねた。
「やっぱりドットはダメか。しゃぶってくれねーか」
 沈黙をどう受け取ったものか。男の声にはある種の諦観が滲んでいた。そして死んだ魚のような目で己の下半身を見やる。視線はある一点へと集中していた。その仕草と台詞で、すべてを悟る。

 ――ドットに、なったのか。
 土方の喉が上下する。
 あの問いはもしもの話でもなんでもなく、ただ事実をありのままに口にしただけなのだろう。
 アレがドットになるとは一体どういう状態だ。立体が平面になるのだろうか。単調な色になるのだろうか。そしてそれは実用足り得るのか。いや、役に立つわけがない。
 どうしよう、すごく気になる。


「って、オイオイオイ何? しゃぶってくれんの? ドットでもしゃぶってくれるんですかァ? だったらホテルでお願いしますコノヤロー」
 真っ昼間の街中で、人の股間に手を伸ばしかけた相手に銀時は少し焦った。その声に我に返ったか、土方は咳ばらいを一つして姿勢を正す。
「お前はどーしてそういつもそこばっかり狙われんだ」
 それは嫌味でもなんでもなく、素直な土方の感想だった。
 というのも、以前、銀時のそこはボックスドライバーに改造された事があったからだ。それにしてもあんなところをピンポイントでわざわざドライバーに改造するというのだから、天人の思考回路は全く理解できない。善良な地球人にとっては本当にはた迷惑な存在である。
 しかしそれにしても、今度はドットとは。よくよく狙われたものである。それほどターゲットにしやすいのだろうか。ターゲットに選ばれた男は不機嫌に顔をしかめて「知るか!」と吐き捨てた。その気持ちは男として解らないでもないが。
「大体おかしーんだよ。そんないつ使用したかも解らねー代物。あ、希少価値か? 化石的な何かとして人気があるとか」
「オイオイひじかたくーん。お前何言ってくれちゃってんの? そりゃ最近ご無沙汰だったけどな。それはお前にも原因があるだろ」
「何でオレに原因があるんだ。言いがかりはよせ」
「オィイイイイ、何だコレ? ツンデレか。ご無沙汰すぎて拗ねてんのか」
 馬鹿な台詞を吐いたと思ったら、銀時はぐいと茶を煽った。ぶつぶつと文句を言う銀時の股間に土方の目が留まる。
 アレがドットって一体どんな感じ?
 それは純粋な好奇心だ。断じてご無沙汰だからとか、あんな事やこんな事がしたいわけではない。ただ後学のために、これから先天人によってどんな事件事故が起きるとも限らないから、そのために必要な知識の一環だ。
 どうなっているのか、見たい。
 見て、思い切り笑ってやりたい。
 そんな好奇心に彩られた土方の横顔を死んだ魚の目が捉える。銀時は湯のみを置いて立ち上がった。

「そーんなに銀さんのココが気になるってんなら、ホテル代、お前さんが出すなら見せてやらねえ事もねェよ」
 食べ終えた後の団子の串を楊枝代わりにくわえた男が誘い文句を口にする。そんな銀時に土方は不機嫌な顔も露に答えた。
「えっらそうに。テメー払った事ねーだろうが」
 文句をいいつつも土方も立ち上がる。やはりなんだかんだいってもドットは気になるのだ。ファミコン世代なら尚の事。

 それから数刻後、いかがわしいホテルにて「謀られた!」と叫ぶ男の声が響いたとか。



090923
白血球王のネタ

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