それはほどよく酒も入った頃合いを見計らっての事だった。
「なァなァ、ところでよォ」
「あん?」
「男とヤルのって超キモチイイんだって」
一体この男は何を言いだすのか。
土方は相づちを打つのを止めたが、銀時は酒臭い息を吐きながらぺらぺらと話を続ける。
「長谷川さんのコレクション中にな、あったんだよ一本だけ。アレ、本人は間違ったとか紛れ込んだとか言い訳してたけどアレだね。絶対興味あったね。で、俺も後学の為に見てみたんだけどもうなんていうか凄い世界だね、有り得ねェよ。だってアレがあそこになんてそんなもう無理って」
話の内容はくだらないものだ。どうやら銀時の知人がかなりな数のアダルトDVDソフトを所有していたらしい。その中に男同士の絡みを主にしたものがあったというのだ。そんなものをわざわざ視聴したらしく、銀時は一人で盛り上がっていた。
土方は特に答えず手酌で杯を傾ける。隣の男が少々うざったいが、土方は大人なので興味の無い話は右から左へ聞き流していた。銀時の声は最早雑音を通り越して無いものとして扱っている。だが。
「ってなわけでどうよ今晩」
いきなりにゅっと目の前に手が突き出された。正確に言えば、指が。
少々親指の位置に問題がある握りこぶしは、『合体』を意味する。
「……ハ?」
思わず胡乱な目で銀時を見返せば、そこにあったのは酔っ払いの顔だった。土方も酒が入っているから酔っ払いには違いないが、ここまで酷くはないだろうと思う。もとより自分とこの男では顔の造作が違うのだから仕方あるまいが。
「話が見えねェんだが」
そう言い返して銀時の拳を押し返すと、相手は信じられないというように肩をすくめた。
「お前人の話聞いていましたかァ?」
まったくもって人を小馬鹿にした口調だ。
「男同士って、すげェイイって話だからよ。今晩いかが? って言ってんだよ」
銀時の言葉に土方は鼻白む。
「誰と誰が」
「俺とお前に決まってんだろー」
「何の為に」
「いやだってお前こんなんできるの俺の周りじゃお前くらいじゃね? ガキやおっさん相手にすんのも何だしお前遊び慣れてそうだし。ちょっと顔も良いし」
銀さんとヤれるなんて光栄に思えよコノヤロー、と締めくくる。
土方は無言になった。チャンスと思ったのか、銀時が身を乗り出して口説きにかかる。
「な? どーよ一遍。試してみねェ?」
相当酔っているのだろう。頬を上気させにやけた面で口にする誘い文句は、親父の居酒屋という場面を差し引いても色気のあるものではなかった。
返事を寄越さない土方に焦れたのか、銀時はグダを巻き始める。
「テメーこらむっつりスケベ。お前だって実は興味あんだろー。どんだけキモチイイかとか」
男の子だもん興味が無ェとは言わさねーよ、と銀時は含み笑いを浮かべつつ肘をつついてきた。
だから土方は言ってやる。
「どんだけキモチイイか知ってるがテメーに突っ込まれる気はこれっぽっちも無ェ」
勿論、突っ込む気もないときっぱり言い渡す。
「ホラな、お前だってホントは……」
銀時の動作がまるでフリーズしたパソコンのようにそこで止まった。
「アレ?」
「親父、勘定頼むわ」
銀時が再起動している間に土方は席を立つ。どうしようもない酔っ払いは先程の台詞を反芻し、意味を考えているのだろう。答えを待つ気はない。土方はさっさと店を出る。
夜風は火照った頬に気持ちよかった。
070319
坂田弁護士の話でマダオがいっぱいDVD持ってたよね。
ひとつくらいはあってもいいかなとか……。
あとこの土方さんはちょっとイケナイ人ですね(笑)