四十四訓小ネタ

 



 なァ、オイ。沖田っていうあの小僧はともかく、なんでお前等までぞろぞろとこんな所まで来てるんですか? 真選組存続の危機じゃないんですか。なんなんですかこの隊士の数。それだけお前が人生賭けてきたってことですか。なァ、真選組副長さんよォ。



 何だかうまいこと乗せられて、煉獄関なんて糞趣味の悪ィ所に連れて来られて、胸の悪くなるようなこの国の裏の顔見せられて。いやそういうことが無いなんて夢見てるわけじゃねえけど、でも知っちまったらやっぱ夢見が悪いっつーか何ていうかコラ。――だから餓鬼は反則だっての。
 弔い合戦なんて今時流行りゃしねーのは解ってんよ。んで、お前がそーいうの解んねェのも解ってるよ副長さん。解ってるから別に来なくていいっつってんのに。来ちゃったよ、来ちゃったよ。あー俺実は結構愛されてる? あ、違う? 愛してるのはあの沖田って小僧? まァどっちでもいいさ俺は俺のやりたいことをやるまでよ。――といってももうこっちは粗方片づいちまって、残った奴等はアイツが引き連れてきた真選組隊士共が取り囲んでいやがる。
 もうほとんどやることもねェかと思って洞爺湖降ろした矢先のことだった。

「銀髪確保ォ!」
「あ?」
 真選組の隊士が二人。俺の腕を掴んだ――ってオイちょっとォ! 待てよ、俺は煉獄関とは全然関係ない一市民じゃねーか! なんだよ確保ってコラ。犯罪者か? 犯罪者扱いか!?
「オイなんだ離せコラ。俺ァ別に悪ィことなんもしてねーぞォ!!」
「喧しい! 銀髪、テメーには聞きたいことが山ほどあるんだよ」
 俺の右腕を捕まえているハゲが言った。なんですか。俺ハゲにプロフィール聞かれるような趣味無いんですけど。でもまあせっかくだから答えてやるけど。
「俺かァ? 趣味は糖分摂取特技は目を開けたまま寝るこ――」
「誰も聞いとらんわ!」
「アァ!? だったらなんだっつーんだテメーコラハゲェ!!!」
 人の話は最後まできちんと聞きなさいって母ちゃんに言われなかったのかハゲ! いやタコか? タコだからか? タコだから人間様の言葉が通じねェのか?
 俺の台詞にハゲもといタコは俺の腕を掴む手に一層力を込めやがった。
「いでででででで! 砕ける! 腕が砕ける!」
「……ったく副長もこんなヤローのどこがイイんだか」
 ――は? 今なんつったハゲ。いやタコ。
「とにかくテメーには一切合切吐いてもらうぜ……。最近うちの副長にこそこそちょっかいかけてんのはテメーだろうが銀髪……」
「ハッ、こそこそってなんだコラァ! 堂々とかけとるわ!」
「自慢になるか! そーか、やっぱりテメーかコラ……」
「そーか。テメーが副長を……じゃあ大人しくしてもらおーか」
 タコが茹だった。もう一人の方はタコよりマシだったのに、今は冷ややかな空気で俺の腕を絞めている。あ、あの、本気で痛いんですけど。止めて下さい。俺一応怪我人なんです。
「オイ、新八ィ! オイ! おまっ、ちょっとくらい助けようとか思わねーわけェ!?」
 傍にいるはずのあいつらはどうした? なんでなにもしないんだ? と思いつつ喚けば。こちらを見る二対の白い目に気がついた。
「銀さん……悪いけど僕はそっち方面はノータッチで」
「自分で蒔いた種ネ、責任取って刈り取るがヨロシ」
「テメーらそれでも人間かァ!! ちょっ、酷いだろそれェェ!!」
 ぎゃあぎゃあと喚き散らすとタコが「うるせぇ!」と怒鳴ってくる。
「きっちりしっかり説明してもらうぜ銀髪よォ。俺らの副長が最近おかしいわけをよ」
「何かしたんだろ。言え! 何した!?」
 ぐ。いやそんなこと言ったらアイツすげー怒るだろ! あとで機嫌取るの大変なんだぞ! 言えるかァ!!
「言わねェつもりかコノヤロー。吐け! 副長が最近益々エロ臭ェのはテメーの仕業だろ!?」
「ふらっと消えて帰ってきたと思ったら疲れ果てて居眠りとかしてんのもテメーのせいだろ!」
「副長の鎖骨に噛み痕つけたのもテメーなんだろ!?」
「ちょっと待てそれなんで知ってんだテメーらァ!!」
「風呂の時に見たんだよ!!! ってやっぱテメーじゃねェか!!!」
 あ。
「なんのことやら……」
 ピューピューと口笛を吹いて誤魔化したのに、一発で見抜かれてしまった。何故だろう。
「オイ……」
「ああ」
 あ? 何。アイコンタクト? なんですかお前ら。俺をどこに連れてこうってんですか。誘拐? 誘拐かコノヤロー!
 腕を持ち上げられ、引きずられそうになるのを、両足で踏ん張って抵抗する。
「テメー大人しくついてこい!」
「覚悟しろよ……。いくらあの人が独裁的で、局長馬鹿で、マヨラーで、瞳孔開いてたってなァ。テメーみてーに定職に就かずにフラフラしてるよーなヤローに、俺たちの副長まかせられねーんだよ!」
 あっ、なんだそれ。偏見だろーが! っていうかまかせられないのがなんだ。それで何するつもりですかァ!!!
「言っとくが、隊のほとんどが同意見だからな! 楽に死ねると思うなよ……」
 まさか俺――殺られる!? 冗談じゃねー! いくらアイツが愛されてるっつったってな、これ、限度あるだろオイ! コラ! ちょっ、お前! 解ってんの!? お仲間に俺がとっ捕まってんだぞ。助けろコノヤロー!!!
 ――と散々喚き散らしていたら。



「てめーら全員黙れェェェェ!!!!」
 耳まで真っ赤にした副長さんが、やっと助け船を出してくれた。




041102
P17の5コマめ
銀さんが真選組隊士二人に捕まってます。
しかも何やら言い争っているご様子。
どうしてどうして?から生まれた超馬鹿話でした。

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