はじまりのおわり






 俺は殺し屋、ソウゴ13。今俺はあるターゲットを狙っている。


 特別武装警察真選組。その屯所に奴はいた。黒髪で目付きの悪い、愛想のねェ野郎だ。しかもうぜー事に奴は副長なんてポジションについている。近藤局長の隣にいるべきは俺なのに土方のくせに生意気な――と、まあそれは今はいい。
 こないだ奴は小せェガキに睨み効かせて大泣きされやがった。ざまーみろ土方。動物と子供は優しい人がわかるというのは本当だ。それを証拠に、女にはモテねーが近藤さんなんかいつもガキにモテモテだ。
 そしてその夜、近藤さんが野郎に言った。

『トシ、お前ちょっとくらい愛想よくしてみろよ。戦いも大事だが、市民の皆さんに親しまれてこその警察だぞ』
『何言ってんだ近藤さん。俺ァ鬼の副長だぞ。笑顔なんざ似合わねーし、親しまれるのはアンタや一部の連中だけで十分だ』
 そんな風に、その時はごねてうやむやにしていたが、俺は知っている。奴は近藤さんの言うことは聞く野郎だ。
 だから奴がひとりこっそりと屯所の洗面所に向かうのはわかっていた。

 ――あそこには『アレ』がある。

 俺は銃を構えてその時を待った。奴が現れるその時を。そして時は来た。

 ――俺は洗面所の鏡を覗き込む隙だらけの男の頭に、鉛の弾をぶちこんだ。

「グッバイ、土方さん」




× × × ×






 それは突然の出来事だった。

 突然、土方の目前で鏡が割れたのだ。しかも、土方の引き攣った笑顔を映した瞬間に。


 先日、土方は町で子供に大泣きされてしまった。元々愛想がいいとはいえない上、鬼の副長などという肩書きを持つ男には似合いな出来事だろう。だが近藤は言ったのだ。
 もっと愛想よくしろと。
 そうは言っても土方は近藤のように屈託のない笑顔など浮かべた事がないし、またできるとも思えない。だがせめて、人並みの愛想笑いくらいはマスターするべきかと思い、誰もいないのを見計らい洗面所の鏡相手に練習していた矢先の事だった。
 笑う事に慣れない顔が鏡の中で奇妙に歪んでいた。だがしかし、まさかその瞬間鏡が割れるとは。まるでコントのようだが、紛れもなくこれは現実であると、粉々に砕け散った鏡の破片が物語る。
 きらきらと輝く破片を見ながら立ち尽くしていた土方だったが、ふとその口端を歪めた。

「上等だコラ。俺ァ今後一切、笑顔なんざみせねェ!」


 洗面所を出ていく鬼の副長の目に、光る水滴があったとか、なかったとか。
 そんな噂がしばらくの間組内で流れたらしい。




080912
これをT猿のTさんにメールで送ったらほめられました。
でも私、きちくでもなければ鬼でもありませんヨ。
ただちょっと土方さんをいじめてみたい年頃なだけですヨ。

text