おっさんの条件






 ああ、沖田君じゃねーの。何? 仕事さぼって団子ですかァ。いい身分だねえ。恐い副長さんに怒られんじゃねーの。
 ん? 何。ちょっ。お前なあ、そりゃいくらなんでも銀さんの事見くびりすぎだろーがよ。それくらい知ってらァ。当たり前じゃねーか。
 え? 土方君は知らなかったって?
 あー……しょーがねーんじゃね。だってあいつ剣と真選組とマヨ以外目に入ってねーもんな。
 あ? よく知ってるって? そんなん誰が見ても解るだろーよ。
 まあ銀さんは土方君と違って? 世の中の事も常識も解ってるし、風流なのも好きだし?
 当然季節の移り変わりだって気にしてるよ。
 ああ? 本当だって。だからちょっとした花の名前くらい知ってるっての。
 ……何その目。急に蔑んだ目になって。あからさまにため息かァコノヤロー。目上の人は敬いなさいって、先生に習わなかった沖田君?
 何。銀さんなんか変な事言った? え? だからそれは知ってるって。花の名前だろ。ガキどもが寺子屋とかで育ててて、春んなったら咲く赤白黄色の――って違う?
 何が違うってんだよ。合ってんだろーが。
 だから、ちゅーりっぷだろ!
 え? 違う? ちゅーぷり? 何だそりゃ。何かの呪文ですかァ。
 今見せてくれるって? 別に興味ねーけどな! どれどれ――っておまっ、コレどうした!?
 何何……うん。ゲーセンで? へー。プリクラ? ああ、なんか若い娘がキャイキャイやってるねェ。そこで? ふうん。それってちゅーぷりっていうんだ。へえー。


 感心したような台詞を吐く銀時の目は、沖田の持つ刀の柄に注がれていた。沖田愛用の刀の柄に貼付けられているのは、そこには似つかわしくない代物だ。それは小さなシールとなった写真だった。中には沖田本人と、それから彼の上司である土方の姿が映っている。しかしその写真は目を疑うような仕掛けがしてあった。
 それは、写真の中の沖田と土方が、ばっちりキスしているシーンだったのである。



   *  *  *


「――で?」
 お前は何が言いたいんだ、と。土方は目の前の闖入者を、酷く凶悪な顔で睨みつけた。机の上に山と積まれた書類と、吸い殻が山盛りになった灰皿。当然の事ながら機嫌は良くない。そんな折に現れたのが、彼の天敵である万事屋坂田銀時であるのだから苛々は最高潮に達しようとしていた。
 突然ばたばたと足音も高く現れた男は、執務室の障子を開け放ったかと思うと驚く土方の目前へと座り込んだ。それから乱れた息を整えるまで男は無言で土方を凝視している。
「いい加減目的を――」
「お前」
 焦れた土方が用件を聞こうとしたのを銀時は真剣な顔で遮った。そのいつになく真面目な顔にわずかながら遅れを取る。そしてともかく次の言葉を待った。
「沖田君とちゅーぷり撮ったそうじゃねーか」
 銀時の口からこぼれ出た言葉に土方はまさしく仰天した。脳裏に浮かぶのは「ちゅーぷり」を「ちゅーりっぷ」と間違え、まんまと沖田に乗せられてとんでもない写真を撮ってしまった日の忌々しい記憶だ。今思い出しても腹が立つ。しかし、なぜコイツがその事を知っているんだと不審に思う。考えられるのは、沖田がばらしたという事だ。アイツはなぜかこの男に懐いている節があるから、その考えは外れていない気がする。
「だからよー、これは提案なんだけども。俺と一緒にハメぷり撮っ――」
「百万光年先で死にさらせ!」


 銀時の言葉が終わるより早く、土方の足が繰り出された。




080612
急に湧いて出たネタでした。

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