い男





 ショートケーキ、チーズケーキ、ティラミス、チョコレートパフェ、チェリータルト、みたらし団子、アイスクリームにチョコレートフォンデュ。プリンにゼリーにババロアと、シュークリームも忘れずに。ケーキは逃げないから大丈夫? 馬鹿言ってんじゃねェや、逃げはしねェが浚われはするんだよ。浚われたってまた来るからいい? 間に合わなかったらどうすんだコラ、こっちは時間制限あるんだぞコノヤロー。甘いもの取りすぎだ? てめェ何様だ? 医者ですか? お医者さんだったらゴメンナサイ。

 

「多串君、食べないの?」
「だから俺は多串じゃねェ」
 いつまでも勝手につけた渾名で呼ぶ男に向かって突っ込むも、土方の声にいつもの鋭さは無い。どうして俺はこんなところにいなきゃならねぇんだ? と疑問ばかりが頭に浮かぶ。ちょっとこの状況はいただけない。力一杯本気でいただけない。
 目の前に銀髪の侍。これはいい。けれども、皿一杯のケーキオプション付き。周りは女のグループか、でなければカップルばかり。男同士のグループなんていやしない。ましてや二人連れなど。それだけでも珍しくて注目の的なのに、土方が真選組の制服のままだから余計に悪目立ちしている。
「っていうか多串君も取ってこないと勝負にならないんですけど」
 勝負。そう勝負だ。勝負のはずだ。男同士の、侍の。なのに。
「なんでケーキバイキングなんだよ!?」
 ――気付いたらこんな場所に居る。何故だ。土方はちょっと自分の行動を振り返ってみた。街で偶然万屋に会って、よし勝負だという流れになり、ここじゃなんだ、いい場所があるから付いてこいと言われて素直についてきたら、勝負とは関係なさそうな建物へと連れてこられた。気付けば周りは女ばかり。町中よりさらに刀を振り回し難い。それくらいの常識は自分にもある。
「ってもう喰ってるし!」
「時間制限あるんだから当たり前だろ」
 呑気にパフェにスプーン突っ込んでいる男はそんなことを言う。土方は黙って万屋の皿を見た。所狭しと並べられたデザートに胸焼けしそうになる。これ全部食べるのかよ、いくらなんでも多すぎだろ、と突っ込む気力も失せてしまった。まあいい。万屋が食い終わるまで待ってやる。そしたら勝負だ。今度こそ勝負だ。
 なんだか諦め気味に机に片肘を付いて頬を乗せたら、「世話が焼けるなあ」という声が聞こえた。どっちが、と思ったところスプーンに乗せたアイスクリームが目の前に現れた。
「あ? 何の真似だてめェ」
「だって多串君一つもケーキ持ってきて無いじゃん。あげるよ」
「いらねーよ」
「あ、そ。じゃあ勝負は俺の勝ちってことで」
「こんな勝負があるかー!」
 認めない、断じて。土方は叫ぶ。
「苛々するのは糖分が足りてないからだよ多串君」
「だから俺は多串じゃねェしてめェは糖分取りすぎだっつの」
「あ、アイスが溶ける」
 知ったこっちゃない、と思ったが。万屋はいつまでもスプーンを引かないし、溶けたアイスがポタリとテーブルに白い雫を落としたのを見て、自分のテリトリーが汚されたようで癪に障った。この一口だけだと妥協して、冷たい塊を口にした。――のが間違いだった。
「なんだか俺達、デートしてるみたいだね多串君」

 瞬間斬りかかった筈なのに、目の前の銀髪がピンピンしているのが本気で悔しかった。




040606
この二人はお互い名前を呼ばないままなのかなあ……
銀さんの口調難しい。
多串君、と呼んでる時は小馬鹿にしてる気がする。

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